【小売業】商品補充業務のRPA化事例

小売業でよくある課題の一つが「在庫管理や発注」に関するものです。たとえば、以下のような状況が頻発しています。

  • 商品の自動補充業務が手作業に頼っていて、ミスが多発している
  • データ作成に時間がかかり、補充業務の開始が遅れる

特に商品点数が多く、データ件数が膨大な企業では「あるある」の問題ではないでしょうか?

本記事では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用して、こうした問題を解決した事例を紹介します。同様の課題を抱えている方々にとって、参考になる内容です。

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こさい
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(株)完全自動化研究所代表のこさいです。

1) ITエンジニア歴25年超。RPA開発歴8年超
2) RPA関連の書籍を6冊出版。
3) RPAトレーニング動画を販売しています。
4) Power Automate Desktopフロー販売を行っています
5) ご質問・お仕事のご依頼はこちら

業務の概要

企業の概要

本事例の対象企業は、全国にチェーン展開している雑貨小売企業です。以下に企業の特徴を示します。

  1. 業種と事業内容
    雑貨や日用品の販売を主力とする小売業で、全国に多くの店舗を展開しています。店舗では、日常生活に役立つ多様な商品を取り揃え、顧客の幅広いニーズに応えています。
  2. 組織構成
    • 本社:東京都に所在し、商品の企画や管理、各店舗への指示を統括しています。本社の商品管理部門が、店舗に必要な在庫を管理し、物流部門と連携して補充業務をサポートしています。
    • 倉庫:地方に複数の倉庫を所有しており、各地域の店舗に商品を配送する拠点となっています。倉庫には物流部門が配置されており、商品補充や発注業務を担当しています。
  3. 取り扱い商品
    • 定番商品:年間を通して販売される商品で、店舗に欠かせない重要なアイテムです。これらの商品は「基準在庫」を基に適切に補充されます。
    • 季節商品:季節ごとに需要が増える商品で、在庫量や補充タイミングが重要です。
  4. ビジネス規模
    数百店舗規模で事業を展開しており、物流や在庫管理の効率化が売上と顧客満足度向上の鍵となっています。特に、売上の大半を占める「Aランク商品」の補充業務が、企業全体の収益性を左右する重要なプロセスです。

業務の概要

本事例で対象となった業務は、「Aランク商品補充業務」です。この業務は、店舗での欠品を防ぎ、販売機会を確保するための重要なプロセスです。Aランク商品は、店舗の売上に直結する定番商品であり、常に適切な在庫量を維持する必要があります。

業務の流れは以下の通りです。

  1. 本社の商品管理部が「基準在庫表」を作成し、物流部門にメールで送信します。
  2. 物流部門では、「基準在庫表」と「在庫情報」「発注残情報」を突合して、補充リストを手動で作成します。
  3. 倉庫担当者が補充リストを基にピッキングを行い、店舗に出荷します。
  4. 倉庫に在庫が不足している商品については、物流部門で発注処理を行います。

この業務は、商品の適切な補充を通じて、店舗の欠品防止や顧客満足度の向上を目的としています。

定番商品に関わるデータフロー図
定番商品に関わるデータフロー図

業務の課題

Aランク商品補充業務には、以下のような課題がありました:

  1. 手作業によるミスの多発
    • 物流部門の担当者が手動でリストを作成する際、データの突合や計算ミスが頻発していました。
    • 倉庫に在庫がない商品もリストに含まれており、ピッキング作業が非効率でした。
  2. 非効率な作業プロセス
    • 古いBIシステムを使用していたため、在庫データや発注残データの取得に30分以上かかっていました。
    • データを取得後に手動で加工する時間が必要で、補充業務の開始が遅れていました。
  3. 過剰な労働負担
    • 物流部門の担当者が始業前に早出残業を行い、補充リストの作成を進めていました。
    • この状況が継続し、担当者の負担が大きくなっていました。
  4. 発注の漏れや欠品リスク
    • 補充リストに基づく発注処理も手作業で行われており、発注漏れが発生することがありました。
    • 欠品が発生した場合、店舗の売上機会損失や顧客離れのリスクが高まっていました。

これらの課題により、業務全体の効率が低下し、顧客対応や売上にも悪影響を及ぼしていました。これを解消するため、RPAを活用した完全自動化が検討されました。

自動化のプロセスと要件定義

業務の分解と課題整理

業務は次の2つのパートに分けられました。

  1. Aランク商品の基準在庫を修正し、物流部に伝達する作業
    • 本社と物流拠点が分かれているため、連携ミスが発生することがあった。
  2. 週2回のAランク商品の補充業務
    • 古いBIシステムでデータ取得に時間がかかり、担当者の早出残業が必要だった。
    • 倉庫に在庫がない商品もリストに含まれるため、ピッキング作業が非効率的だった。

2つのパートの要件を整理してまとめていきます。案件のまとめかた、要件定義の方法については「完全自動化の要件定義とは」という記事で解説していますので、参考にしてください。

要件定義:Aランク商品の基準在庫を修正し、物流部に伝達する作業

  1. 基準在庫の修正自動反映
    • 商品管理部が修正した基準在庫情報を、自動で共有フォルダー(クラウド環境)にアップロード。
    • フォルダーはリアルタイムで同期され、物流部が最新情報に常時アクセス可能とする。
  2. ファイルフォーマットの標準化
    • 基準在庫表のフォーマットを統一し、修正時のデータ入力ミスを防止。
    • 入力制限や自動検証ルールを設定し、不正な値の入力をブロック。

要件定義:週2回のAランク商品の補充業務

  1. 補充リストの自動作成
    • 新BIシステムから在庫データ、発注残データを定期的に自動取得。
    • 基準在庫表と突合して、補充が必要な商品のリストを自動生成。
  2. リストの最適化
    • 倉庫在庫が不足している商品をリストから自動的に除外。
    • 不足数や補充数を自動計算し、ピッキング作業を効率化。
    • 商品カテゴリごとにリストを分割し、担当者に自動配布。
  3. 商品別過不足一覧表との連携
    • 補充できなかった商品のデータを自動的に商品別過不足一覧表に追加。
    • 発注数を基準在庫に基づいて計算し、メーカーに送信する仕組みを構築。
  4. 作業スケジュールの最適化
    • 週2回の補充タイミングを事前に設定し、スケジュールに基づいて自動実行。
    • 補充リストが指定時間までに物流部へ送信されるようにプロセスを管理。
  5. 倉庫担当者向けの補充リスト
    • 補充リストには「倉庫に在庫がある商品」のみを記載し、無駄なピッキング作業を削減。
    • 各商品ごとの担当者名を明記し、作業分担を明確化。

成果物1:商品別過不足一覧表

1つ目の成果物は「商品別過不足一覧表」です。この表は、物流部門の担当者が使用するもので、店舗補充業務の状況把握と発注業務に活用されます。

店舗に商品を補充したくても、倉庫に在庫がない場合には、メーカーへ発注をかける必要があります。そのため、この一覧表を基に状況を確認し、適切な発注を行います。

商品別過不足一覧表のイメージ

商品別過不足一覧表の概要

  1. 掲載される項目
    • 担当者名:各商品ごとに管理する担当者が明記されています。
    • 品番:商品の固有番号
    • 基準在庫数:店舗で必要とされる標準的な在庫数を記載。
    • 現在の在庫数:現在の倉庫内の在庫状況を反映。
    • 発注残:すでに発注済みだが、未納状態の商品数。
    • 不足数と過剰数:基準在庫数を基に、「不足しているか」「過剰か」を単純計算して記載。
  2. リストの簡素化と判断の余地
    • 発注数や発注先は表に含まれていません。これは、各商品の担当者が最終的に判断を下す必要があるためです。
    • 商品過不足の状況以外にも、価格や納期などのパラメータが絡むため、すべてを自動化すると柔軟性が失われる可能性があります。

成果物2:倉庫担当者用のAランク商品補充リスト

2つ目の成果物は「Aランク商品補充リスト」です。このリストがメインの成果物となります。

物流部の担当者は、この補充リストを印刷し、倉庫担当者に渡します。倉庫担当者はリストを基にピッキング作業を行い、出荷までを完了させます。

Aランク商品補充リストのイメージ
Aランク商品補充リストのイメージ

Aランク商品補充リストの概要

  1. 掲載される項目
    • 品番:商品の固有番号
    • 店舗コードと店舗名:商品補充対象の店舗
    • 基準在庫数:店舗で必要とされる標準的な在庫数を記載。
    • 不足数:基準在庫数を基に、不足している数を単純計算して記載。
  2. 出荷数の計算
    • 補充リストに記載されている「不足数」がそのまま出荷数となります。
    • 担当者は不足分を確認し、効率的に出荷準備を進められます。
  3. 倉庫在庫に限定
    • リストには倉庫に在庫がある商品の品番のみが掲載されています。
    • これにより、担当者が「在庫があるかどうか」を確認する手間が省かれ、作業効率が向上します。

改善されたポイント

  • 倉庫に存在しない商品をリストから除外することで、ピッキング作業がスムーズに進みます。
  • 担当者がリストの内容をすぐに理解できるシンプルな形式になっており、作業ミスのリスクが低減されています。

自動化の概要

完全自動化では、基準在庫の修正から補充リストの生成・配布まで、ほぼすべての工程を自動化しています。一部手作業を残しつつも、自動化されたプロセスにより業務効率と正確性が大幅に向上しました。以下に、その仕組みを解説します。

ロジックをフロー図で表すと次のようになります(この図式はBPMNという表記法です。「業務改革、見える化のための業務フローの描き方」という本を参考にしています)。

完全自動化のロジック
完全自動化のロジック

1. 自動化の対象外:基準在庫修正

商品管理部担当者は、Aランク商品の基準在庫を修正する作業を手動で行います。この修正はExcelファイルに記録され、自動化サーバーの専用フォルダーに同期されます。これにより、基準在庫表のメール送付が不要となり、情報共有の迅速化とミス防止が実現しました。

2. 完全自動化のプロセス

既定の日時になると、次の一連のプロセスが自動的に実行されます:

  1. データ収集
    • 新BIシステムから在庫数と発注残数を取得します。
    • Aランク商品基準在庫ファイルと商品別担当者一覧ファイルも同時に取得されます。
  2. データの突合と加工
    • 取得したデータを基に突合処理を行い、必要な情報を加工します。
    • この工程で、2つの帳票が生成されます:
      • Aランク商品補充リスト
      • 商品別過不足一覧表
  3. 帳票の配布
    • 完成した2つの帳票は、物流部門の担当者にメールで送信されます。

3. 物流部門担当者の作業

自動化プロセスにより、物流部門担当者の業務は大幅に簡素化されました。

  • メールで受信した補充リストを印刷し、倉庫担当者に渡すだけで完了します。
  • データ作成や手動での突合処理が不要となり、時間と労力を削減できます。

自動化のメリット

RPAを活用して次のような改善が実現しました:

  1. 自動補充リスト作成
    定期的に新BIシステムからデータを取得し、「基準在庫表」「在庫情報」「発注残情報」を突合して、自動で補充リストを作成します。倉庫に在庫がない商品はリストから除外されるため、倉庫担当者のピッキング作業が効率化されました。
  2. 発注作業の効率化
    補充できない在庫については、自動的に発注リストに加える仕組みを導入しました。これにより、発注漏れを防ぎ、在庫不足を未然に回避できます。
  3. 作業時間の短縮
    物流部門の担当者はリスト作成やデータ収集の手作業が不要になり、早出残業が解消されました。
  4. 売上向上
    欠品が減少し、人気商品の売上機会を逃さなくなりました。

※) 欠品率の低下と売上向上の相関関係を厳密に分析することは難しいです。なぜなら、景気、キャンペーン、接客努力など、さまざまな要因が影響しているからです。ただし、店頭で「人気商品が欠品していない」状況が、売上向上や店舗スタッフのモチベーションに良い影響を与えていることは間違いありません。こうしたロジックについては、「ザ・クリスタルボールザ・ゴールという有名な本の小売業編)で学びました。

自動化の詳しい設計や開発方法、運用方法については、当社で執筆した書籍の中で詳しく解説しています。

>>オープンソースで作る!RPAシステム開発入門 – 設計・開発から構築・運用まで

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