こんにちは。完全自動化研究所の小佐井です。
RPAとExcelを組み合わせた事例についてRPA開発者さんに解説してもらいます。
1) IT歴20年。開発から業務改善まで幅広く経験してきました
2) 複数の企業において2016年からRPA内製化をサポートしています
3) RPA関連の書籍を5冊出版しています
はい。それでは、私が開発を担当したEC受注レポートの自動化についてお話します。
「手作業でExcel帳票を作成している」という人、「RPAとExcelを組み合わせてなにができるの?」と疑問を持っている人は是非お読みください。
それでは、どうぞ!
自動化対象企業と部署の特徴
雑貨や宝飾の小売チェーン企業のEC事業部がこの自動化の対象です。
このEC事業部は、3年前から複数のECモールに出店している。新しい事業であり、急速に売上が上がった為、業務が急激に忙しくなっています。
EC事業部としてはまだ赤字ですので、これ以上人員を増やすわけにはいきません。
ぎりぎりの人数で日々の煩雑な実務に追われています。
経営層やマネージャへの実績報告も遅れがちになっており、自動化の要望が出てきていました。
ECに本格参入してから、まだ3年だから現場も手探り状態。でも売上が上がって仕事は山積みなのよね。
そうですね。それでは自動化する前の状態を把握していきましょう。
【BEFORE】業務自動化前
【全体把握】EC業務全体をざっくりと把握する
私がヒアリングしました!
EC事業部長、実務者を交えてミーティングを行い、大枠をつかみました。
自社サイト1つ、外部ECモール3つに出店していることがわかりました。
合計4店舗出店していますね
さらに業務を深くヒアリングしました。
ECサイトの業務ごとに担当者がいることがわかりました。
1. 商品のマスタ登録・管理担当者
2. サイトに表示する商品の画像処理担当者
3. 受注や売上の分析・レポート担当者
4. ECサイトの売り上げを販売管理システムに計上する担当者
5. 商品の補充や発注を行う在庫管理担当者
データフロー図を描くと図1のようになりました
図1:ECの全体図
ECサイトは合計4つありますから、単純に考えると20人必要となりますが、兼務をすることで13~15人で回していることがわかりました。
図1には描いていませんが、業務は他にもSNSへの情報更新やメルマガ配信、顧客管理、返品やクレームの対応など、さまざまあります。
ほとんどの業務は手作業で行われるため、日々の業務に追われており、改善を考える人自体がいない状況です。
これは業務が大混乱してそうですね~
経営者には「EC事業なのにIT化されていない」という現状を理解してもらえておらず、部内にはITに詳しくない実務者しかいません。
なのに、経営者には「EC事業のレポートがほとんど出てこないうえに、分かりにくい」と不満をいわれています。
だから、まず最初にEC受注レポートの自動化をお願いしたい、という要望です!
【個別案件把握】EC受注レポート作成業務の把握
全体の把握ができたので、EC受注レポートの仕様を把握しました
現在、手作業で作成しているEC受注売上表をもらいました(図2)。
図2:EC受注レポート
たしかに見にくいですね…
業務自動化前の業務フロー
自動化する前の業務フローを確認して、図にしました
受注レポート用のデータを取得する際、各ECサイトの担当者がそれぞれのECサイトにログインして、データをダウンロードして加工していました。
これらが「データソース」となります。
4つのECサイトはそれぞれ項目がまったく違うため、加工方法が違います。
ECサイトごとの加工方法は、各サイトの過去の担当者が編み出した「伝統」があります。
加工した4サイトのデータは、EC事業部の共有フォルダにあるフォーマットファイルに張り付けてレポートが完成です。
レポートは印刷して会議で配られます。
フロー図を描くと図3のようになりました
図3:ECレポート作成フロー
レポート作成のタイミング
EC受注レポートを作成するタイミングを確認しました
EC受注レポート作成の作業に約1時間かかっていました。
本当は毎日作成したいのですが、作成に時間がかかりすぎるため、受注レポートを作るのは月曜日の朝からのEC事業部営業会議の時だけでした。
レポート作成担当者はこのために8時から早出残業していました。
また、月初1日はたとえ休日でも作成し、メール配信しています。
さらに、ECサイトによっては、データの反映が2日以上遅れますので、月初2日も朝(朝にデータが反映されていなければ夕方も)に前月集計を作成しています。
EC受注レポート作成の要件定義
自動化の要件をユーザーと決めました
成果物のイメージ
現状のフォーマットは項目が不ぞろいで分かりにくかったため、すっきりとした一般的なフォーマットの集計表を提案しました。
主に当レポートを見ることになる経営層の見慣れたフォーマットです(図4)。
図4:ECレポート作成フロー
右側に商品区分別の情報を付け、詳細を見たい場合は横にスクロールして見る仕様です。
自動化前との変更点
フォーマット変更だけでなく、それまでになかった情報も加えました
1. 累計に加え、当日売上を追加
2. 受注区分を追加し通常と予約を分割
3. サイト別日割予算を追加
自動化のタイミングで新しい情報を加えることはよくありますね!
完全自動化の実施
完全自動化フローを解説します
EC受注レポート自動化フロー
- スケジュール機能でRPAツールを呼び出して、4つのECサイトから受注データをダウンロードさせる。ダウンロードした受注データは自動化サーバーに保存する。
- EC受注レポートのフォーマットファイルはファイル共有ツールを使って、担当者の端末と自動化サーバーのテンプレートを同期させる。
- 自動化サーバー内で、VBA(Excelマクロ)を使い4つの受注データを加工して、EC受注レポートの形に整形する。
- 出来上がったEC受注レポートをメールに添付して関係者に配信する。
図5:ECレポート自動化フロー
例外処理
サイトによっては、データが更新されていなかったり、画面の動作が急に変更になっていたりして、RPAツールが例外を起こすことがあります。
この場合は例外を運用担当者にメール通知するとともに、そのEC管理サイトを終了させ、次のサイトのデータを取得します。
その上で、例外が起こったサイトはデータが取れなかった旨をレポートに自動で記載します。
実行タイミング
毎朝、自動配信されます。
また、月初1日、月初2日にも前月の月末版が配信されます。
【AFTER】業務自動化後
完全自動化後の様子です
自動化以前は、週次の会議での報告だったものが、日次で経営層まで自動配信されるようになった為、経営判断および営業判断が劇的に早くなりました。
また、担当者の早出残業も無くなりました。
完全自動化の管理側としては、EC管理サイトの画面仕様変更などのコントロールできない事象がある為、改修は常時続けなければなりません。
大きな効果が表れましたね!
でも一方でRPA運用者には負担が少し増えましたね
運用案件が増えましたが、エラー発生時は担当者に自動メールされているし、理解されているので大丈夫です。
これで報告を終わります
関連する書籍
こちらの書籍でも詳しく解説しています