商品補充業務のRPA化事例【小売業】

こんにちは。完全自動化研究所の小佐井です。

僕は現場の課題をITで改善する仕事を25年以上続けています。サービス業や製造業などにも関わりましたが、一番長く関わっている業種は小売業なんです。

小売業の中で多い課題が「商品の在庫管理や発注に関する」もの。例えば、

商品の自動補充業務を担当しているけど、手作業が多いし、作業者のミスも頻発する…。データ作りに時間がかかって補充業務を始めるのが遅れてしまう…。

といった課題、多すぎる。

商品点数が多くてデータ件数が多い会社では、とくに「あるある」問題でしょ?

この記事では、僕がRPA化することで、こういった問題の1つを解決した事例を紹介するので、同じような悩みを抱えている人、参考にしてみてはどうでしょう。

それでは、どうぞ!

この記事を書いた人
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こさい
こさい

(株)完全自動化研究所代表のこさいです。

1) エンジニア歴25年超。RPA開発および支援8年超
2) RPA関連の書籍を5冊出版。現在はGPT×PADの書籍を執筆中!
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改善前の状況は?

僕がRPA化する前の状況についてお話します。

この企業の特徴

僕がRPA案件を請けた企業は全国にチェーン展開している雑貨の小売企業です。

東京に本社があり、地方に倉庫を持っています。倉庫に物流部門の人たちが在籍しており、商品の補充作業を行っています。

全体的な状況

全体的な状況を説明する前に、こちらのデータフロー図をご覧ください。

定番商品に関わるデータフロー図
定番商品に関わるデータフロー図

ちょっと難しそうですが、この図を解説していきますね。ゆっくり見てみると、そんなに難しいことは書いていませんから。

本社にいる商品管理部の担当者(仮に商品の田中さん、とします)が定番商品の「基準在庫表」を作って、物流部門にメール送信しています。図の右上の方に書いてありますよ。

年間を通じて常に店頭に並んでいないとお客様に不満を持たせ、売上減少、顧客離れにつながる商品を「定番商品」と位置付けて管理しています。

商品の田中さんからのメールを受信した物流部門の担当者(仮に物流の島田さん、とします)が「基準在庫表」をいったん保存しておきます。

定番商品補充業務を行う日になったら、物流の島田さんが「基準在庫表」と「在庫情報」と「発注残情報」を付け合わせて、「定番商品補充表」という新しい表を作成して印刷します。

「在庫情報」と「発注残情報」はBI(ビジネス・インテリジェンス)ツール、いわゆる分析ツールからデータを抽出します。このBIシステムが2つあることもわかりました。図では「新」と「旧」の2つのBIを書いていますね、それです。

物流の田中さんは「定番商品補充表」を倉庫担当者に渡します。倉庫担当者はこの表を元に商品をピッキングします。

物流の田中さんは、在庫がない、もしくはなくなりそうな場合は発注業務を行います。

以上が定番商品補充業務の全体図です。パッと読んだだけじゃ、頭に入りにくいでしょうから、図と見比べながら理解してくれるといいな、と思います。

定番商品補充はとても大切な業務なんだけど、煩雑なうえ、現在は人手に頼っている部分が多いことがわかりますね。

これは、自動化したいという要望があがって当然!というわけです。

自動化案件の深堀り

ここまでで、定番商品補充業務の全体図を把握できたので、もっと深堀りして、

  • 自動化の対象となる業務を特定
  • 課題の整理

を行っていきましょう。

自動化の対象となる業務を特定

経営層と現場の話し合いにより、今回の自動化では、定番商品の中でも特に重要なAランク商品を補充する業務を対象とすることになりました。

 なので、このRPA化対象の業務をこれからは『Aランク商品補充業務』と呼ぶことにしました。

かなり商品の範囲が絞られましたね。いきなり、全部の定番商品が対象だと荷が重いですから、よかった、よかった。

さらに、業務を整理すると

  • Aランク商品の基準在庫を修正して物流部に伝達する業務
  • 週2回のAランク商品の補充業務

という、2つのパートに分けられることがわかってきました。

この2つのパートをそれぞれを改善すればいいんですね!

課題の整理

上で整理した2つのパートごとに課題を整理します。

1つ目の『Aランク商品の基準在庫を修正して物流部に伝達する業務』には、

  • 基準数変更や品番変更がよくあるが、商品の田中さんと物流の島田さんは本社と倉庫に分かれているので、連係ミスがたまに発生する。
  • 物流の島田さんは倉庫内で業務を行っていることが多く、事務所での作業時間は少ない。

という課題がありました。

もう一つの『週2回のAランク商品の補充業務』の課題は、

  • 古い方のBIシステムを使っており、在庫データの件数も多いため、データ取得に30分以上かかってしまいムダな時間を過ごすことになる。
  • 朝一番から出荷作業にかかってもらうために、物流の島田さんは週2回、始業1時間前に早出残業している。
  • 物流の島田さんはExcelに慣れていないため、補充リストを作成する際、ミスすることもあり、正しく補充できないこともある。
  • 島田さんの作る補充リストには、「倉庫に在庫がない商品」も混ざっているので、倉庫担当者は商品をピッキングするときに「倉庫にはない商品」も探すことになっており、ムダ。
  • 物流の島田さんは補充リスト作成の際に、将来的に不足しそうな商品を見つけ、メーカーに発注しているが、手作業で作っているため漏れていることもある。

といったことです。

多いですね!

簡単そうな業務にも、これだけのムダとミスを生む要素が含まれているのは驚きですね。

そして、もっと大きな課題が!わかりますか?

Aランク商品の補充が遅れたりミスしたりすると、店頭で欠品が発生して、「人気商品を買いにきたのに、商品がない!」という悲惨な状態になる。結果、売上が下がるのはもちろん、お客様離れにもつながるし、店舗スタッフのモチベーション低下にもつながってしまう。

これは、大きな問題ですよね!

経営に超インパクトのある『Aランク商品の補充業務』なんですから、ぜひとも解決しなければなりません!

個別案件の要件定義

ここからは、自動化の要件を整理してまとめていきます。

案件のまとめかた、要件定義の方法なんかは「完全自動化の要件定義とは」という記事で解説しているので、こちらもお時間のあるときに読んでもらえれば理解が深まるんじゃないかと思います。

 成果物イメージ

自動化の要件を詰めるときに最も重要なのが「成果物」です。「結局、何を出すのか?」がわからないと話は進んでいきませんから。

ということで、自動化後に出力する帳票のイメージを固めました。

物流担当者の管理する商品別過不足一覧表

1つ目の成果物は「商品別過不足一覧表」となりました。物流の島田さんが使うことになる表です。

店舗に補充したくても倉庫に商品がなかったら、補充できないのでメーカに発注をかけなければなりませんね。そのためにこの商品別過不足一覧表で状況を確認して発注をかけます。

商品別過不足一覧表のイメージ

商品ごとに管理する担当者がいるので「担当者名」を載せます(担当者は島田さんだけじゃないんですね。各商品に担当者がいて、島田さんは取りまとめの役割だったんです)。

基準在庫数と在庫数、発注していて未納の商品は発注残として載せます。

不足数と過剰数は単純に基準在庫に対して「少ない」か「多い」かを計算しているだけ。

もしかしたら、「この表には発注数が載っていないし、発注先も載っていないので不親切だなぁ」と思う人もいるかもしれませんね。

この後、商品ごとに担当者の判断もあるし、商品過不足以外にもいろいろなパラメータが絡むそうので、そこまで踏み込んで自動化していないんです。

業務の隅々まで自動化するのではなくて、

  • 人の判断の余地を残しておく
  • 自動化の範囲を広げすぎない

というのもコツの1つだと思います。この後、発注まで話が膨らめば、別途、要件定義していけばいいのです。

倉庫担当者用のAランク商品補充リスト

2つ目の成果物は「Aランク商品補充リスト」です。もともと、こちらがメインですね。

物流の島田さんはこのリストを印刷して、倉庫担当者に渡します。倉庫担当者はこのリストをもとに、ピッキングを行い出荷します。

Aランク商品補充リストのイメージ
Aランク商品補充リストのイメージ

「不足数」が出荷数になるわけです。

このリストに掲載されている品番は倉庫にあるものだけに絞られているので、「在庫があるか、ないか」は調べなくていいようになっています。

 その他の要件

この自動化を機会に、使用するBIは新システムのみを使うことにしました。古いBIシステムはいずれ廃棄される予定だし、動作速度が遅いからです。

 完全自動化のポイント

本件の完全自動化のポイントは物流の島田さんの作業をなるだけ軽くすることです。これにより、

  • 手作業による表の作成をやめてミスを防ぐ
  • 物流の島田さんの早出残業をなくす

という狙いがあります。

完全自動化する

要件が整理できたので、いよいよ「完全自動化」します。完全自動化のロジックをフロー図で表すと次のようになります(この図式はBPMNという表記法です。「業務改革、見える化のための業務フローの描き方」という本を参考にしました)。

完全自動化のロジック
完全自動化のロジック

商品の田中さん(商品管理部担当者)によるAランク商品基準在庫修正(Excelファイル)だけは手作業です。このExcelファイルは自動化サーバーのフォルダーに同期させます。これによって、メールでの基準在庫表の受け渡しはなくなりました!

既定の日時が来たら、完全自動化のプロセスが実行されます。

このプロセスを簡単に解説しますね。

新BIシステムから在庫数と発注残数を取得して、Aランク商品基準在庫ファイルと商品別担当者一覧ファイルも取得します(データ収集)。

すべての情報を突合して(加工)、新たに帳票(Aランク商品補充リストと商品別過不足一覧表)を作成します。

Aランク商品補充リストと商品別過不足一覧表は物流の島田さんにメール送信されます。これも、もちろん自動。

メールを受信した島田さんは、もうデータを作成する必要はありません。添付されているAランク商品補充リストを印刷して、倉庫担当者に渡すだけで業務は完了するわけです。

改善後の状況

完全自動化して、運用が始まった後、どうなったのか? 少し見てみましょう!

まず、商品の田中さんと物流の島田がメールでやり取りすることがなくなったので、「メールを見逃して基準在庫数の修正を反映できていない」というミスがなくなりました。うん、これはサーバーで基準在庫表が共有されているから、ですね。

Aランク商品の補充日(週に2回)になると、物流の島田さんのところに「Aランク商品補充リスト」がメールで送られてくるので、島田さんの作業は印刷をして、倉庫担当者に渡すだけになりました。帳票作成作業がなくなったため、早出残業する必要はない!島田さん~、楽になりましたね。

倉庫にない商品はあらかじめAランク商品補充リストから除外されているため、倉庫担当者はムダに商品を探さなくてよくなり、出荷効率がアップしました。

補充作業が楽になり、効率もアップしたおかげで、Aランク商品に該当する商品数を増やすことができるようになりました。欠品させない商品が増えたおかげもあり、売上高が向上しています。

欠品率の低下と売上向上の相関関係については厳密には分析できません。景気やキャンペーン、接客をがんばる、など複数の要因があるからです。ただ、店頭で「人気商品が欠品していない」という状況が売上にも店舗スタッフにもいい影響を与えているのは間違いない、と思います。僕はここらへんのロジックについては「ザ・クリスタルボールザ・ゴールという有名な本の小売業編)で学びました。

この「商品自動補充業務の完全自動化」の詳しい設計や開発方法、運用方法については、僕の本で詳しく解説しています。

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